TOP > 加賀四湯紀行 > あなたの好きな加賀の風景 > VOL.9『夕日』

VOL.9 『夕日』 Y.?

片野海岸からの夕日

海に日が沈む。

これがどうしても理解できなかった。頭では分かっているのだが、ダメなのだ。

私は体内に方位磁石を持っている。もちろん本当に持っているわけではなくただの勘で分かるだけなのだが。ほぼ100%東西南北が正確に分かるのだ。私の周りに同じ特技を持っている人がいないので珍しいのかもしれない。

石川県に引っ越してきて、まず驚いたのが先ほど書いた「海に日が沈む」である。関東出身の私にとっては「海は日が昇る場所」であり、私の体内磁石には『海=東側』というのが常識としてインプットされている、らしい。自分のことであるけれどもはた迷惑な話である。海が西にあるのはおかしい!と思っているようでドライブ中でも海が見えた瞬間に「北に向っているのに左に海が見える、ってことは北に向ってるんじゃなくて、実は南に向ってるのね」こんなことを無意識のうちに思ってしまう。しかし実際には北に向っているので頭の中の認識と体内磁石のズレが生じてしまう。ズレようが合っていようが普通に会話もできるし、人並みの生活もできるのだけれど、どうも気持ちが悪い。そのズレが出るたびに「東がこっちだから・・・」といちいち確認してしまう。自分でもめんどくさいのだけれど仕方ない。

海さえ見なければ、バカらしい確認作業をいちいちしなくても済むのは分かっている。それなのに、晴れた日には夕日を見るために車を走らせてしまう。海岸に着くとやっぱり最初に東側を確認し、安心してから夕日を眺め、お決まりの一服。海に沈んでいく夕日を見ていると自分が日本海側にいることを改めて感じることができる。太平洋側では決して見ることができないこの光景を目の前にすると、自分はとてもラッキーだと思えるから不思議だ。平凡な1日をキレイな夕日で締めくくることができるとなんだか明日はものすごい良い日になりそうな気さえしてくる。

こちらに住み着いて数十年。
いいかげん『東=海』の図式がなくなってもよさそうなものなのに、未だに『西=海』にはなっていない。海に沈む夕日を見ても確認作業しなくて済むようになって初めて身も心も石川県民になれるのだろうか。・・・自分のことながらやっぱりよくわからない。

こんな私の目下の夢は、太平洋に昇る朝日を眺めて、日本海に沈む夕日を眺めること。もちろん1日で、だ。地球の裏側とか反対側などとよくいうが、日本の裏側、反対側というのもなかなか良いものである。ただ、1日で朝日と夕日を見るためだけに行き来しようとする人が、私のほかにいるかどうかは分からない。考えているのは千葉の犬吠崎で朝日を拝んで、石川県の片野海岸で夕日を拝むコースである。
・・・やっぱり無謀な計画だろうか。

(2004.10)

このページのトップへ