VOL.30 『近くとも遠いふるさと』 Y.D
加賀市富塚町の神社と丸山古墳
加賀の梅雨は7月にやってきます。そして梅雨が明けるともう夏休み。加賀の新興住宅地で共稼ぎの両親とともに暮らす私と兄弟は、小・中学校の夏休みの大半を隣町にある親の実家で祖父母や従兄弟と過ごしました。映画「おもひでぽろぽろ」では主人公のタエちゃんが自分には夏休みに遊びに行ける田舎がないと嘆いていましたが、私は田舎に住まいながら夏休みを過ごせる田舎も持っていたのです。自宅から歩いて5分の場所ではありますが。
加賀の夏は多湿です。汗をかいたらかきっぱなし。エアコンはドライがよろしいのですが、田舎の家にエアコンはありません。周囲は田んぼに囲まれ、その向こうには山が見えます。野うさぎが棲む、うさぎ追いしかの山です。山の中には墓地があり、先祖のお墓があります。家の脇には小川があり、タニシなどが取れます。田んぼ脇の道を少し歩くと森に差し掛かります。その道脇には、この土地が開かれたときに掘り出されたものでしょうか、大きな石がごろごろと積まれています。大人にしかられながら子ども達が遊ぶ場所であります。さらに行くとこの町の公民館、そして神社があります。白山を奉る神社です。シイの木が並ぶ境内は、やはり子どもの遊び場です。ジイジイと蝉が鳴き、じくじくと蒸し暑い中でも空気が凛としています。神社の裏には竹林があります。竹になろうとしているタケノコがあります。子どもは面白半分に折るのですが、大人はこれはもう食べられないと顔をしかめるのです。どこにでもある田舎の風景です。
それから20年余りたった今、田舎の家は改築し、エアコンがつきました。やんちゃな孫達の面倒を見てくれていた祖母は今や山の中です。私たちも従兄弟たちも独立して家を離れ、盆暮れ正月にもなかなか顔を合わせられなくなりました。それでも、夏は毎年やってきます。長い夏休みには奔放に過ごした思い出が多いせいか、夏という季節は郷愁を誘います。私はカメラを持ち、随分久しぶりに思い出の田舎へ足を伸ばしました。
木々が影を落とし薄暗かったイメージのある道が、何だか明るくなっています。道脇の家も白く新しくなっています。古びた町の公民館は改修の真っ最中でした。神社の木はこんなに少なかったかしら、天辺はあんなに枯れていたかしら。自分の記憶が
いい加減なのか本当に町が変わったのかは分かりませんが、どこか知らない町に来たような気持ちにさえなります。そして大きな石が積まれていた場所さしかかると、そこに石はなく、代わりに12年前に立てられた市の看板がありました。『史跡 丸山古墳』。まあ、私達ときたらお墓で遊んでいたのですか。いや、ここは本当に自分の覚えているあの場所だったのだろうか、私はいよいよ分からなくなったのでした。「ふるさとは遠きにありて思うもの」。遠くとは距離ばかりではないようです。記憶の彼方のふるさと。かへらばやと願おうとも、決して帰れる場所ではないのでした。
(2006.7)