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VOL.32 『大聖寺川界隈』 A.D

加賀市大聖寺 旧大聖寺川(大聖寺流し舟)

あれは確か5年前、まだ独身だった頃、その土地の音楽や踊りで人をもてなすことができたらいいな、沖縄の人みたいに…。なんてぼんやり考えながら、大聖寺の町を歩いていた。

その一画はわずかに古い町並みが残り、ほとりを流れる川には木の遊歩道があって、いろんな花が咲いている。こんなに心地よい場所なのに、みんな知らない。知らないから静か、誰にも会わない。私だって高校時代は、自転車でただ通りすぎていただけの道だ。時折プ〜ンと漂ってくる焼きたてパンの甘い香りに誘われて、友人と川岸でパクついたことはあったけれど、あの頃は、花が咲いてるとか、渋い家があるとか、そんな目で町の様子を見たことがなかった

大人になって大聖寺の町を見てみると、小さくてもやっぱりお殿様が住んでいた土地だけあるなぁと感じる。元高級武士らしきお屋敷、立派な樹々、鉄砲町、鍛冶町、鷹匠町…とかつての生業を表す町名と細かな町割り。そして人々の気質にそれが表れている。

時折、懐かしさもあってその町並みを歩いてみるのだが、偶然、本当にすごい偶然に、音楽で人をもてなせたら素敵と考えていたら、どこからともなく三味線の音が聞こえてきた。「ててちとしゃん…」なんてしっとりとした音色。ピッタリではないか、この町に。ひょっとして、三味線はこの地に根付いた芸能なのか?誰だろう、この三味線の音主は。などと頭にいっぱい?マークをつけながら、小走りにその音をたどった。たどり着いた先は、「月田夏枝美容室」。

ほどなく私は、月田夏枝さんが教わっているという三味線の先生の門を叩いた。そこで初めて三味線には細棹、中棹、太棹があること、その先生は津軽三味線の太棹が専門だということ、月田さんが弾いていたのは細棹で、お座敷用の三味線だということを知った。

「だから根本的に音色が違います。細棹は艶っぽく爪弾く感じですが、津軽三味線は太棹で、まぁ叩く打楽器みたいなものですかね。」今さらそんなこと説明されても、「教えて下さい、お願いしますっ」と頭を下げてしまった後では、「やめます」なんて言えるはずもなく、結局、「大は小を兼ねますから」という訳で津軽三味線を習うことになった。

せめてもの抵抗で、山代音頭、山中節など地元の民謡の手ほどきを受けている。左手の薬指ってこんなに思い通りに動かないもの?果たして、三味線で人さまをもてなせる日は来るのか?…今も苦悩の日は続く。

今月から、この町で流し舟が運行されることになった。乗り場はいみじくも月田夏枝美容室前。運が良かったら、三味線の音色をバックに舟遊びができるかもしれない。なんて風流なのだろう。やっぱり大聖寺には、「べべべん」調の太棹三味線は似合わない。

(2005.9)

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