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TOP > 加賀四湯紀行 > 歳時記 > vol.27 加賀のお宝・橋立町。伝統地区選定をお披露目するvol.27 加賀のお宝・橋立町。伝建地区選定をお披露目する
冬のカニ漁で知られる橋立漁港、周辺には磯料理店が立ち並んでいる。漁港から船溜り沿いの道を5分ほど歩くと、それまでの漁師町とは景色の違う町並みが現れる。赤瓦の屋根、石垣と板塀のある屋敷群。かつて明治の頃、「日本一の富豪村」と称された北前船主の集落である。この橋立地区が、このほど文化庁により国内70番目の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定された。
冬の風物であるズワイガニ漁が終わったばかりの3月21日、選定を記念するイベントが行われた。会場は北前船の里資料館、1千坪の敷地に旧北前船主、坂谷長平の屋敷を保存・公開した先駆けとなった建物である。中では研究者や保存会のメンバーらによるシンポジウムが開かれた。
パネラーのひとり、保存会の宮本啓子さんのコメントが印象深かった。資料館の建設から伝建地区選定に至るまでずっと情熱を注いできた橋立の人である。「今日の恩人がいます。牧野隆信先生です。20年前、荒れていたこの建物を再生する意義を訴え、『もし市が買い取らなければ私の家を売って進めればいい。北前船のドラマは必ず多くの人を惹きつけるから』と言っていただいたことを覚えています。先日、今回の選定を待つかのようにお亡くなりになられました。感謝し切れません」。牧野先生は加賀市在住で、北前船研究の第一人者として多くの調査をもとに北前船の歴史的・文化的価値を広められ大きな業績を残された。
一方、伝建選定は「諸刃の剣」だとの声もあった。俗に言われる「観光地化」である。観光による資源の食いつぶしへの危惧。保存整備が進むと同時に、多くの人が訪れるようになり、地元の予想を超える速さ、大きさで負荷がかかってくる。気がつけば住民の暮らしや意識がすっかり変わってしまうこともある。「観光客におもねることなく、本物をしっかりと守りながら住民の手でじっくりとまちづくりを楽しんでほしい」と文化庁の苅谷参事官は語る。
ともあれ、これからである。今回の選定をきっかけに、カニだけではない橋立地区の魅力、北前船の里としての価値が、日本全国に、また地元加賀市に住むわれわれ市民にも、広く確実に伝わっていくことは間違いないだろう。それはとても素敵なことであり、誇りである。
橋立の町はいつ歩いても心地よい。浜方らしく明るく人なつっこい気性、のどかな風景、でもその後ろには気品があり落ち着いた強さが見え隠れする。今はまだ人とすれ違うこともなく本当に静かな小路ばかりだが、不思議と家々からは生活の密度とその品質が伝わってくる。歴史の懐なのだろう。
牧野先生が監修された小さな観光ガイドブックがある。初版は15年は遡るだろうか、観光にたずさわり始めたころいつも教本にしていた。タイトルは「加賀の旅路・いつ訪ねても詩がある」となっている。北前船の歴史、漁港、原風景が広がる加賀海岸。いつ行っても知らぬ間に風景に浸ってしまう、橋立はまさにそんな町だと思う。
(2006.4 M.O)