加賀市の伝統工芸「九谷焼」と「山中塗」

九谷焼と山中塗発祥の地、加賀市。
工芸の枠を超えたアートや美術品としての価値や技術力の高さを紹介します。
あなたのお気に入りがきっと見つかります。
加賀市の伝統工芸「九谷焼」と「山中塗」

九谷焼の特徴

  • 古九谷 色絵花鳥図平鉢
  • 古九谷 色絵梅鶯唐草文隅入四方皿
  • 古九谷 青手菊尽文輪花鉢
  • 古九谷 青手梅笹に樹木葉図平鉢
  • 宮本屋窯 赤絵金彩松図瓢形大瓶
  • 浅井一毫 作 赤絵金彩群馬図水注 幕末~明治大正

色とりどりの華やかな色彩と花鳥風月の絵付けが目を引く九谷焼。

「五彩手」は、緑・黄・紫・紺青に赤を加えた九谷五彩で日本画のように器を彩る様式で、その華やかで力強い絵画性が特徴と言えます。

深い色味が美しい「青手」は、基調となる緑・黄に紫・紺青を効果的に配し、油彩画のように器全体を塗り埋める大胆な色遣いが特徴です。

「五彩手」や「青手」とは、全く異なる特徴をもつ「赤絵」は、赤絵の具の細描を中心に金彩をアクセントとし、デザインによっては若干の黄緑・空色・黄色等を用いる繊細で煌びやかな様式です。

九谷焼は、古九谷以来脈々と続く古典様式を継承しつつも、常にあらたな技法や表現を生み出してきました。

この継承と革新の気風こそが、現代の「加賀九谷」に受け継がれた「伝統」なのです。

九谷焼の歴史

  • 古九谷 色絵唐草梅花文輪花中皿 江戸前期
  • 古九谷 青手竹虎図平鉢 江戸前期
  • 吉田屋窯 百合図平鉢 江戸後期
  • 吉田屋窯 龍宮図平鉢
  • 北出塔次郎  金襴手額面「胡砂の旅」 昭和

九谷焼の発祥は、江戸時代初期。加賀前田家の支藩である大聖寺藩の命により九谷村(現在の加賀市山中町)で焼かれた色絵磁器「古九谷」にまでさかのぼります。

陶石の産地となった九谷村に、磁器を焼くための窯を築いたことで、その地名にちなんで「九谷焼」と呼ばれました。

しかし、古九谷は開窯からおよそ50年後に、突然廃絶します。廃窯に関する明確な証拠は見つかっておらず、今日まで「謎」として残されたまま。

謎の廃窯の後、約100年の時を経たのちに金沢の春日山窯や大聖寺藩領内屈指の豪商・四代目吉田屋伝右衛門によって九谷焼が再興された他、その後も様々な窯が生まれていきます。

現在九谷焼の産地は、加賀市のみならず、金沢市から能美市・小松市にいたる石川県加賀地方の全域に広がっています。

多くの作家が活躍し、伝統的な九谷焼を継承する一方で、現代美術やストリートカルチャーからも影響を受けて、新たなスタイルの技法やデザインが開発され続けています。

九谷焼に触れる

日本で唯一の九谷焼専門美術館として、九谷焼の歴史や名品を一挙に見ることができる「石川県九谷焼美術館」。時代を追って、古九谷、再興九谷、近現代のカテゴリで作品を並べ、360年以上の歴史を持つ九谷焼の魅力を紹介しています。

2階のミュージアムショップでは、現代作家の作品を購入することも可能。

喫茶スペースも併設されているので、九谷焼の器でお茶やお菓子をいただきながら、ほっと一息つくこともできます。

また、江戸時代の吉田屋窯の窯跡(国指定史跡)を、発掘された状態のまま公開している「九谷焼窯跡展示館」。

敷地内には他に、九谷焼としては現存最古の登り窯(加賀市指定文化財)や、九谷焼窯元の住居兼工房として使われた200年程前の古材を利用して作られた古民家(加賀市指定文化財)があり、現在は展示棟として使用されています。

展示棟内では、本格的な「九谷五彩」を使った絵付け体験や、伝統的な蹴ろくろを使った成形体験(※)、ミュージアムショップでの作品購入も可能です。(※蹴ろくろ体験は現在休止中)

山中塗の特徴

日本の漆器の産地の中ではダントツに生産量が多い山中塗。

県内では、漆器の3大産地として「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」に並ぶ「木地の山中」と呼ばれています。

ロクロを使って木を回転させながら木地を挽く、高い技術で木目の美しさや自然な風合いを最大限に生かしているのが大きな特徴で、木が育つ方向に逆らわない向きで造られる縦木取り(たてきどり)の木地は、木の歪みを抑える山中漆器ならではの手法です。

漆器は木地師、下地師、塗師、蒔絵師など、職人たちの分業でつくられ、連綿と受け継がれた高い技術と丁寧なものづくりで、高品質な器を生み出しています。

優雅な美しさを表現する蒔絵も山中塗の特徴の一つ。

江戸後期に取り入れた蒔絵技術は、漆が塗られた器物に金や銀の粉、色粉を施して文様を描く技法です。

特に茶道具の棗(なつめ)は山中塗の代表的な作品で漆黒色や鮮やかな朱色の漆に繊細で立体感のある蒔絵が施され、その美しさに魅了されます。

近年、この蒔絵の技術は、茶道具だけでなくアクセサリーや万年筆などにも用いられ日常使いが楽しめるものとなっています。

山中塗の歴史

450年もの歴史をもつ山中塗。天正年間に木地師が豊富な木材資源を求め、山中温泉上流の真砂(まなご)集落に辿り着いたことにより始まりました。

江戸時代中期、山中温泉を訪れる湯治客向けにお椀やお盆、土産用の遊び道具を作って販売することで発展します。

その後、木地に筋を入れる「加飾挽」や「薄挽き」を取り入れ、さらに19世紀前半には京都や会津、金沢などから塗りや蒔絵の技術を導入するなど、山中独自の技法へと進化していきました。

親しみがあり日常使いができる塗り物として人気があるだけでなく、繊細な加飾挽きや優雅な蒔絵の美しさは、その芸術性が高く評価されています。

新たに、現代の生活様式に合せたプラスチック樹脂の素地にウレタン塗装を施すという合成漆器の生産にも挑戦しています。

近年では木製の素地にウレタン塗装を施したものや、漆を塗ったステンレスカップ、蒔絵を施したガラス製品など、伝統の技術で培われた高度な塗装・蒔絵技術を生かしながらも、伝統的な木製漆器にとらわれない様々な製品を生み出しています。

山中塗に触れる

歴史的な名品が鑑賞できるだけでなく、現代作家の作品を展示販売もしているのが、山中温泉にある「山中うるし座(山中漆器伝統産業会館)」。

名品の展示のほか、ロクロ技術の実演やビデオによる製造工程の紹介など、繊細な薄挽きや千筋、荒筋などの加飾挽きの技を見ることができます。

展示販売されている作品は、普段使いできる器からアクセサリー、茶道具、インテリアまで幅広く、目を楽しませてくれます。

隣接する山中漆器産業技術センターでは木地挽物の工房見学や体験(土日祝)も可能です。

山中温泉街の中心にある「山中座」は、のべ2,000人からなる山中漆器職人が館内の内装を手掛けた施設で、温泉街の観光拠点となっています。

天平風の優雅な造りの総湯「菊の湯(女湯)」に隣接しており、漆塗りの柱や格子戸風の壁面、蒔絵を施した格天井など、山中漆器の技術を極めた格調高い造りが見どころのひとつです。

また、芸妓による山中節「四季の舞」を始め、伝統芸能を鑑賞することもできます。